平原綾香、槇原敬之を「人間的にも素晴らしい」絶賛する理由とは
音楽をこよなく愛する、ライター・エディター・コラムニストのかわむらあみりです。【音楽通信】第6回目に登場するのは、歌だけでなく声優やミュージカルなどでも実力を発揮されているシンガー・平原綾香さん!
願いは口に出してみるもの
【音楽通信】vol.6
2003年にリリースした、ホルストの組曲『惑星』の中の「木星」に日本語詞をつけたデビュー曲「Jupiter」が大ヒット後、デュエット含むシングル32枚、カバーとベスト盤を含む21枚のアルバムを発表してきた平原綾香さん。昨年デビュー15周年を迎え、今年は吹き替え声優やフィギュアスケートをしながらの氷上ミュージカルなどにも挑戦。今回は、8月21日にリリースされたニュー・アルバム『はじめまして』について、お話をうかがいました。
ーー今年はデビュー16年目となりますが、7月には源氏物語の氷上ミュージカル(宮本亜門さん演出・髙橋大輔さん主演『氷艶 hyoen2019ー月光かりの如くー』)に出演されて、十二単衣を着ながら演じられたそうですね。新しい挑戦で、猛特訓されたのでしょうか。
そうなんです。ツアーの最中でアルバムの制作もあったので、1か月くらいしか練習できなかったのですが、練習するにつれてどんどん滑ることができるようになるとうれしくて。まさかメダリストの高橋大輔くんや荒川静香さんと一緒に滑る日が来るなんて思っていなかったです。
もともとフィギュアスケートが大好きで、選手のように滑って歌が歌えたら最高なんじゃないかと思っていて、「いつかスケートを滑りながら歌うのが夢です」と19歳のデビューのときから言い続けていたら、今世で叶ってしまいました。だから、願いって口に出してみるものだと思います。
ーー高橋さんからはアドバイスをいただいたのですか。
はい。「こうすればうまく滑れるよ」とやり方を教えてくれましたね。
いつでも「はじめまして」の気持ちを持って生活したい
ーーその前の2月に公開されたディズニー映画『メリー・ポピンズ リターンズ』日本版では吹き替えを担当されて、そのときにエンドソングだった「幸せのありか」が、ニュー・アルバムに収録されていますね。
はい。アルバムを作って収録してみると、一段とまた曲の良さが引き立つというか。以前震災や災害があったときに、励ましたいと思っても、どうやって曲を作っていいかわからないときがあったんです。でもこの曲は「がんばれ」とか「信じて」も言わないし、すごい角度から歌詞を紡いでいる曲ですが、それでも応援する気持ちは伝わることがわかりました。すごくいい曲です。
ーーアルバムのタイトルは『はじめまして』ですが、どのような思いでつけられたのですか。
15年間歌ってきて今年16年目で「はじめまして」とつけたのは、タイトル通り、今回「はじめまして」と、初めて聴いてくださっている方もたくさんいると思うんです。一方で、歌うときにどこか慣れてしまっているところやありきたりになっているところがあったとして、やはり初めて歌ったときの感動を常に持ち続けることがすごく大事だと思ったんですね。
というのも、森下洋子さんという尊敬するバレエの先生がいて、先生の踊りを見るとすごく泣けるんです。なぜなら、技術がすごいだけじゃなくて、先生は初めて踊った時の少女のような感動を忘れていないから。だから、私もそういうふうに、いつでも「はじめまして」の気持ちを持って生活したいなと。
そう思うと、わたしたちの生活には、実にたくさんの「はじめまして」があふれているんです。目が覚めた時に「ありがとう」と思うのと、「また今日が来たのか……」と思うのとでは、全然違う日になる。そういったことを伝えたかったのと、あとは槇原敬之さんの曲があったからですね。
ーーということは、アルバムタイトルをつけるよりも先に、槇原さんのタイトル曲「はじめまして」があったんですね。
そうです。
“生まれ変わり”がキーワード
ーー槇原さんのこの曲は争い合う国に住む男女の物語で、一見悲しいようだけれど「もしも生まれ変わったら」と歌い、また会おうという曲ですね。
とくに「君の髪の色が好きだ 君の瞳の色が好きだ 君の話す言葉が好きだ」という2番の歌詞が好きです。違いを認め合えずに争う人間たちが描かれているのですが、いまの日本に置きかえても通じる歌だと思うんです。これからオリンピックもあって、世界中の人たちが日本にやってくるときに、お互いに認め合って譲り合うことができるかできないかで、いいオリンピックになるかが決まると思うんですよね。
ーーそんな楽曲を作られた槇原さんは、平原さんにとって、どんな存在ですか。
マッキーは……とにかく多彩な人で、人間的にもすばらしいです。今回、歌入れ、レコーディングにも立ち会ってくれたんですけど、すごく楽しかったですね。とことんこだわってくれるという、その心意気がすごくうれしかったです。
ーー槇原さんのほかにも、藤井フミヤさん、Coccoさんの書き下ろしによる新曲もありますが、おふたりとも以前から交流があったのですか。
そうですね。どちらもじっくり話したことはまだないんですけど、憧れの人たちです。
ーー槇原さんの曲とフミヤさんの曲、どちらも「ラブソング」で「生まれ変わっても」という歌詞が両方に出てきますが、どちらも違うアプローチでの曲です。
いまの私がそういうイメージに思えたんですかね。今回、“生まれ変わり”がキーワードになっています。
自分が語り部になって歌う
ーーCoccoさんの曲はいかがでしょうか。
女性に特に聴いてほしい曲です。女性がどれだけ傷ついて、そしてまた立ち上がっていくのかという心の繊細な部分が描かれていて、でも決して相手を責めない、人を愛する思いや切なさみたいなものがこの曲にぎゅーっと込められていますね。強くて繊細ではかなくてという、Coccoさんそのものが曲に表れています。
とにかくみなさんに書き下ろしていただいた曲というのは、全部、自分が語り部になっています。平原綾香が歌うからというのではなく、どれだけ曲の良さを伝えられるかというのを意識して大切に歌いました。
ーーそうなんですね。それは今回に限ってですか、毎回ですか。
毎回そうですね。自分が作る曲もそうですけど、「うまく見せよう」として歌を歌うと、まったく伝わらないんです。だけど、ただひたすらに「歌を届けたい、歌詞を届けたい」と思うと、思いも伝わるし、自分自身も出てくる。結局は、とても個性的な歌になるんです。
ーーお父さまはサックス・プレーヤーの平原まことさんですが、今回もアルバムに参加されていて、聴いているとすぐ耳に飛び込んでくる音色でした。親子での収録はいかがでしたか。
15年間ずっと、父にはサックスのレコーディングをしてもらっています。私にとってのサックスの師匠でもあるんですけど、ちょっと生意気に「ここはもうちょっとこう吹いてほしい」と言ってみたり(笑)。父も「わかった」と言ってくれて、血の繋がりのなかでの阿吽の呼吸もあるけれども、音楽家として接してくれています。
刺激的で個性的で聴き応えのあるアルバム
ーー先日、スタッフサービスさんのテレビCM「オー人事のうた篇」を観てびっくりしました。チャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」に歌詞をつけて歌う平原さんがご出演されていましたが、クラシックの曲を歌うイメージから、お話がきたのですか。
はい。お話がきて、わたしもびっくりしたんですけど(笑)、実はけっこう悩んだんです。クラシックの曲に歌詞をつけるということは、クラシック好きな人にとって大切なものにさわってほしくない気持ちがあって、すごくよくわかるんです。
だからこそ、その人たちにも納得してもらえるようなものを作ろうというのが、クラシックをカバーするときのコンセプトなんですが、今回はどう表現しようかと。CMを撮影し、歌をレコーディングし、そしてストリングスを弾いていた人たちもみんな本物の演奏者です。
ーーそうだったのですね。ところで、現在はツアー中でおやすみがないように思いますが、お仕事以外の時間はどのように過ごしていますか。
部屋の掃除ですね。すごく清潔好きというわけでもないんですが、掃除が大好きです。これはいるもの、これはいらないもの、これはわけるものと整理するのが“癒し”なんです(笑)。
なんでそれが始まったかというと、ゲッターズ飯田さんが、「神社に行って恋愛成就・金運アップ・仕事運アップを願っても無駄です。まずは自分の部屋をきれいにしてください。それがゼロ地点。きれいにしてから神社に行ってください」と言っていたのを聞いて。だから、まずは部屋をきれいにしています。
ーー部屋は心の中を表すとも言いますよね。
そうなんです。部屋を片づけた日に、外国の人限定なんですけど、声をかけられたこともあって。どういう片づけ方をしたら、外国の方を引き寄せるのかわからないですけど。
ーーきっと日本人の方には、平原さんとわかってしまうでしょうから、恐れ多くて声をかけられず、外国人の方に限定されるのでしょうね。
そういうのもあるんでしょうか……なので、「あ、こういうことか」と。(笑)
ーー(笑)すごい効果ですね。では最後に、あらためて新作を全国のみなさんにどのように聴いてほしいでしょうか。
新作は、自分でアレンジした曲が入っていたり、槇原さんやフミヤさん、Coccoさんの曲が入っていたり。そして、さだまさしさんの「いのちの理由」という曲をテレビで歌って、ぜひ音源化してほしいという声があって、今回実現化したものがあったり、長岡市立高等総合支援学校の校歌があったり。とにかくさまざまな楽曲が入っているんですけど、すべてが刺激的で個性的で聴き応えのある作品に仕上がっています。
いつも私の歌を聴いてくださっている人も、初めて平原綾香の歌を聴く「はじめまして」の人にも届けたいです。一生懸命作ったアルバムなので、聴いてもらえるのが、一番幸せですね。
取材後記
深みのある美声で幅広い音域を歌う平原綾香さん。インタビューでお話しになるときも、芯の通った声で、さまざまな質問に応えてくださいました。まずは、デビュー16年目を迎えた平原さんのいまが詰まったニュー・アルバムをチェックしてみてくださいね。
平原綾香 PROFILE
2003年12月、「Jupiter」でデビュー。2004年の日本レコード大賞新人賞や、2005年の日本ゴールドディスク大賞特別賞をはじめ、数々の賞を獲得。2015年12月、音楽を通じての社会貢献や支援のために『平原綾香 Jupiter 基金』を設立。
2019年1月・2月、5年ぶりの再演ミュージカル「ラブ・ネバー・ダイ」で再びクリスティーヌ・ダーエ役に。2月公開の映画『メリー・ポピンズ リターンズ』日本版で吹替声優とエンドソングを担当。吹替声優とエンドソングを同一人物が担当するのは、ディズニー映画史上初の快挙。6月から10月まで、15度目の全国ツアー「平原綾香 CONCERT TOUR 2019 ~幸せのありか~」全21公演を開催中。
Information
New Release
『はじめまして』
1.THAT’S THE WAY IT IS
2.I Love You
3.幸せのありか
4.はじめまして
5.5つの魔法
6.Radio Radio
7.世界でたったひとつの絵
8.風凜雪花
9.きずな
10.いのちの理由
11.恋
12.はじめまして〜Acoustic Version〜Piano by Noriyuki Makihara
8月21日発売
UPCH-20529
¥3,240(税込)
【平原綾香 オフィシャルサイト】
https://www.camp-a-ya.com/