三浦しをん原作アニメ主題歌の向井太一「アレのある女性が好き」
音楽をこよなく愛する、ライター・エディター・コラムニストのかわむらあみりです。【音楽通信】第9回目に登場するのは、幼少の頃からブラックミュージックを聴いて育ったシンガーソングライターの向井太一さん!
オン・オフなく常に作りたいものを作っている
【音楽通信】vol.9
2010年に福岡から上京し、バンド活動を経て、2013年よりソロ活動をスタートした向井太一さん。デビューから3年を迎える今年2019年、9月18日にリリースされた3rdアルバム『SAVAGE』でオルタナティブサウンドを響かせる向井さんに、新作のお話をうかがいました。
ーー「ananweb」初登場なので、向井さんのこれまでのことも少し振り返らせてください。幼少期からご家族の影響でブラックミュージックを聴いていた環境で、音楽が身近にあったそうですね。
はい。両親がミュージシャンというわけではないのですが、車や家の中でブラックミュージックなどの音楽が常に流れていました。だから、いまでもその頃の音楽を耳にすると、幼かった頃を思い出します。
ーー音楽好きのご両親の影響で、向井さんも音楽を好きになったのですね。
そうですね。もともと引っ込み思案な子どもだったので、家でおとなしく好きな漫画を読みながら、ゴリゴリのヒップホップを聴くような子どもでしたね(笑)。
ーー(笑)なかなかない感じがします。
6歳上の兄がヒップホップ好きだった影響ですね。小学生ぐらいまでは漫画家になりたくて、漫画を描いていたこともあります。でも、自分の中で“好きな音楽”という意識が芽生えはじめて、興味を持って音楽を聴きはじめました。
ーー以前バンド活動をされてから、ソロ活動へとシフトされていますが、もともと将来は音楽の世界を目指していたのですか。
子どものときはほかの夢もありましたが、全部だめだなと思ったときに、常に自分がふれていたものが音楽だと気づいて。すぐ鼻歌を歌ったり、歌が好きだったり、あらためて音楽について振り返ってみたときに、将来の道としても興味が出てきました。
中学校3年生のときに、地元の福岡にボーカルやダンスなどの専門教科のある高校があって、「通ってみたいな」と思ったのもきっかけです。入学してからは人前で歌うことの気持ちよさや、音楽を意識して伝えることで人との出会いを感じて、自分の将来の夢がはっきりできました。高校卒業に上京して、自分でバンドメンバーを探して、1年半ぐらいはバンドのボーカルをやっていました。
ーーやはり歌うポジションなのですね。
そうですね。そのときはそこまでオリジナルソングはやっていなくて、自分で曲を作るよりは、歌うことに重きを置いていました。
ーーその後ソロで活動され、今回、3枚目のアルバム『SAVAGE』をリリースされます。前作から1年たたずにリリースということで、楽曲制作のペースははやいほうですか。
常に楽曲制作は続けています。前作と今作との間に、デジタルでEPも出していますし、すでにライブもいっぱいやっていて。ライブをしているか、制作しているかみたいな感じがずっと続いていました。
ーーそういう日常生活だとお忙しいですね。
あんまりオン・オフがなくて、常に作りたいものがあれば作っていますね。今回は最初から「アルバムを作る」と決めていたので、けっこうスピード感を重視して制作していました。
葛藤を「曲にしよう」と思った
ーー日常的に楽曲制作をされているとたくさん曲があるかと思いますが、今回のアルバムに収録した曲は、どのような思いで制作されたのでしょうか。
デビューして何年か経って、この3枚目を出すときに、当初自分がミュージシャンとしてイメージしていた場所とはちょっと違うところにいると思いました。もっとできたこともあったし、もっとやりたいこともたくさんあるなという、もどかしさとか葛藤がすごく大きくて。
デビューからスピード感を持って制作してきたんですが、いつまでこのスピード感を保てるんだろうとか、自分が音楽家として本当に才能があるのかという、自問する期間がすごく長かったんです。
落ち込んだり気持ちの揺れが大きかったりするんですが、『SAVAGE』をリリースすると決まったときに、自分の中にずっとあったモヤモヤや葛藤、まわりへの嫉妬を「曲にしよう」と思いました。
自分が隠したいであろうネガティブな感情が、制作へのパワーにすごく強く出るようになったんです。僕は子どものときからすごく負けず嫌いで仕切りたがりだし、そういう悔しさとか、自分への葛藤みたいなものをいままで行動するときのパワーに変えていたことをあらためて思い出しました。
だから、いろいろな気持ちをネガティブにとらえるだけじゃなく、それを先に進む糧としてとらえることをテーマに、アルバム制作を始めました。
ーーでは、最初はタイトル曲の「Savage」からできたのですか。
最初は、チームのみんなに、アルバムのコンセプトから提示したんですよ。『SAVEGE』というタイトルで、ぼくが抱えている不安や悔しさを近くでいっぱい見てきた人たちだから共感してくれました。タイトル曲をどの曲にするのかはまだ決まっていなくて、どういうサウンドにしていこうかという話し合いから始まって。
今回は、2枚目のアルバム『PURE』とはサウンドの毛色も違って、どちらかというとデビューした頃の『24』というEPに近いオルタナティブサウンドで、でも昔のことをただやっているだけじゃなくて、どう新しい展開で見せていこうかと考えつつ、よりバランスを意識して作った曲が多いです。
ーーやはり前作の存在があったからこその今回のこのサウンドになったのですか。
そうですね。単純に、こういう楽曲をまた作りたいという気分だったのもあります。あとは日本の人気のある楽曲は、まわりの人たちもチルアウトする曲が多いんです。みんなで揺れて楽しんでいこうというよりは、自分のアルバムのコンセプトもあって、チルアウトで気持ちよくなるだけじゃなくて、もっと刺激的なものを作りたいと思ったんです。
ーー収録曲の「道」はアニメ「風が強く吹いている」(日本テレビ系 火曜深夜1:29)の第2クールエンディングテーマですが、アルバムでは違うテイストのように感じます。
「道」は、最初、ボーナストラックにする予定だったんです。アルバム制作を決めてから作った曲じゃないからと思っていたんですが、歌詞を聴き返したときにいまの自分にあてはまって、自分がこうありたいなと思える楽曲だと感じました。
アニメのストーリーを展開している楽曲なんですが、それがいま自分に返ってきたというか、響いてくる、あてはまる歌詞で、これはメインに入れたいと思い、ボーナストラックではなくメインの楽曲にしました。
ーープロデュース陣は、新しい方もいれば以前からの方もいますね。2017年にグラミー賞にノミネートされたプロデューサーでレーベルメイトのstarRoさん、インディーズ時代からご一緒のCELSIOR COUPEさんらとは、すでに阿吽の呼吸のような感じで作られているんですか。
そうですね。CELSIOR COUPEはデビュー前からずっと一緒に作っているし、「いまこれを作りたい」というスピード感がすごくて、なくてはならない存在です。starRoさんはデビューからずっと一緒に作っていますし、starRoさんの曲はライブですごく映えるんです。
starRoさんには「ジャム的にもメインストリームから少しはずれるような曲でも、お客さんとのライブでの一体感が生まれるような曲にしたい」とお話していました。
「ほかのアーティストにはやっていない方向性だよね」と確認していただいて、アルバム収録曲の「ICBU」はstarRoさんの曲なんですけど、ほかの曲とはメッセージの毛色も違って、「ちょっと違った目線で聴ける曲を作りたい」ということで制作しました。
制作中はすごく楽しくて、みんなで踊りながら作っていたんです。starRoさんは世代も違いますが、楽しむこと、単純に音楽が好きだということ、熱量が第一だということ、客観視することがすごく上手なこと、すべてが共感できました。
海外も見つつ、日本の音楽もリスペクトしている人だから、アーティストとして僕にどういう楽曲がいいか、どのようにミックスして新しいものを見せていこうかを考えるのが、すごいうまい人だなって、一緒に制作していて、すごく刺激になります。
ジャケットはより自分の好みに合わせた仕上がり
ーーアルバムのジャケットのアートワークもすごく凝っていますね。ご自身でプロデュースをされたのでしょうか。
はい。最初からジャケットにコラージュを使いたいと思っていました。Sang-Hun LEEという以前から僕の作品を撮ってくださっている方がいるんですけど、彼はもともとファッションフォトグラファーなので、今回僕のビジュアルのイメージや楽曲をガラッと変えたいとお伝えしました。
そこで、彼が紹介してくれた韓国のデザイナーのSangwook Parkさんが、僕のイメージをもとに展開してくださいました。自分でイメージした以上のものを出してくださったので、今回も好きな人と好きなように、一緒にやらせていただきました。
ーーこのジャケットは、アートとしてこのまま飾っておけるくらいの作品性ですよね。
そうですね、それはずっと考えています。たとえばスマートフォンで表示されたときに聴いている人が恥ずかしいと思うジャケットはいやだし、極力情報量を少なくして、ジャンルや音楽性を切り離して、自分の想像で展開できるようなものを作りたいと思っていて。
いままでジャケットはポートレートだったり、シンプルなものが多かったんですが、今回はとくにデザインを取り入れて、より自分の好みに合わせた仕上がりにしています。
ーー秋にアルバムのツアーもありますが、今年はこれで何回目のツアーになるのですか。
これで4回目ぐらい? いっぱいありすぎて(笑)。前作のアルバムのツアーやアジアツアーだったり、ビルボードツアーだったり、配信だったり、対バンだったり……(笑)。
ーー(笑)疲れたりはしないんですか。
全然。思い返すと疲れたときもあったかもという感じなんです。ひとつひとつが濃密で、最終的にはすごく楽しかったという思いが強いですね。
ーー秋のアルバムのツアーは『SAVAGE』がメインになるのですか。
ただアルバムを全曲やるというよりは、昔の楽曲も歌って、今まで聴いてくれた人たちもみんな楽しめる内容にしようと思っています。会場も広くなるので、できることもけっこう増えてきました。
恩返しできるように音楽で有名になりたい
ーー普段は音楽制作をずっとされているということでしたが、空いているお時間は何をされていますか。
あんまり家にはいなくて、基本外に出ている気がします。
ーー小さい時は漫画を読んでいたということでしたが。
いまも漫画はしょっちゅう読んでいます(笑)。漫画もそうですし、動画配信サービスはほとんど登録していて、プライベートの趣味ですごく寝不足です(笑)。ドラマだと吹き替え版を観ながら字幕も見たり、ドライヤーをしながらドラマを観たり。24時間じゃ足りないなと思います。
ーーいろいろなところにアンテナを張っていらっしゃるんですね。
そうですね。結局仕事でも音楽やアートワークといった、自分の好きなものを発展させていっているので、普段から、面白いものがないかと無意識に好きなものを探しているんだと思います。
ーー好きなものというと、いま「これ」と明確に言葉にすると何になるのでしょうか。
ぼくの中では、音楽・ファッション・食べ物ですね。
ーーでは、向井さんが好きな女性のタイプはどのような方ですか。
仕事にすごく取り組んでいる人とか、自分で未来を切り開いていこうとする人が好きです。環境のせいにして言いわけばかりしていたり、まわりの人のせいにする人は嫌い。同じ場所にいても新しいことをやっていこうとか、向上心のある人がすごく好きですね。
ーーそれは男性でも同じでしょうか。
僕のまわりにいる人は、楽しみながらいろいろなことをやっている人が多い気がします。
ーー向井さんも向上心のある方なので、同じタイプの人を引き寄せるのでは。
そうかもしれませんし、ぼくがそういった人のところに行こうとしているのかも。ぼくは今回、ネガティブなものを作っているんですけど、ただネガティブなだけじゃなく、前に進もうというポジティブな気持ちでも作っています。
ーーでは最後に、シンガーソングライターとして、今後こうなりたいという目標があったら教えてください。
ずっと変わらずに思っていることなんですが、好きなものや好きなことをやりつつ、ポップスでいたいです。みんなが知っているような人になりたいと思うし、常にバランスを意識しつつ、それをどう発展していくかを考えてやり続けていきます。
僕のまわりにはたくさん支えてくれる人がいますが、そういう人たちに恩返しできるような音楽がしたいといつも思っているので、ひとりよがりにならないように、やっていきたい。有名になりたいですね。
取材後記
そのたたずまいからして、アーティスティックな雰囲気を放っていた向井太一さん。ファンクやソウル、ジャズといったブラックミュージックをルーツにしながらも“いま”の思いを音楽に昇華しているニューアルバムをまずはチェックしてみてくださいね。
向井太一 PROFILE
1992年、福岡県生まれ。シンガーソングライター。2013年よりソロ活動をスタート。2016年3月、1st EP「POOL」をリリースし、発売日に即完。2017年11月、1stアルバム『BLUE』でメジャーデビュー。2018年末から2019年2月まで全国ツアー、3月から4月は台湾・中国3都市・韓国をまわる初のアジアツアー、ワンマンツアーなどを精力的に実施。3rdアルバム『SAVAGE』を提げた全国ツアー「ONE MAN TOUR 2019 -SAVAGE-」を10月18日名古屋ボトムラインから11月14日Zepp Tokyoまで行う。
Information
New Release
『SAVAGE』
1.Confession
2.Runnin'
3.Savage
4.ICBU
5.君へ
6.Can’t breathe
7.Voice Mail
8.最後は勝つ
9.道
10.Dying Young
Bonus Track:I Like It
9月18日発売
(通常盤)
TFCC-86693
¥2,700(税別)
【向井太一 オフィシャルサイト】
http://taichimukai.com/