JiLL-Decoy association「すごく大切なタイミング」デビュー15周年の新生ジャズ
【音楽通信】第79回目に登場するのは、デビュー15周年を迎えて新曲を連続リリースするジャズバンド、JiLL-Decoy association(ジルデコイ・アソシエーション)のおふたりです!
ジャズのライブで出会いジルデコを結成
写真左から、chihiRo(vo)、towada (dr)。
【音楽通信】vol.79
2002年に結成され、2006年にメジャーデビューした、chihiRo (vo)さん、towadaさんからなるJiLL-Decoy association・通称「ジルデコ」。ジャズ、ポップス、ロックをベースにしたオリジナリティあふれる楽曲とエレガントなボーカルで、多くの人たちを魅了しています。
2013年にはアルバム『ジルデコ5』が「第55回日本レコード大賞」の「優秀アルバム賞」を受賞。2021年は、いま世界的ヒットになっている70年代のシティポップのカバー曲を発表したり、ジルデコの既発曲が海外で1位を獲得したりと国内外で躍進。
そんなジルデコが、2021年6月23日にデビュー15周年イヤーの第1弾となるシングル「ダブル」をリリースされるということで、音楽的なルーツなどを含めてお話をうかがいました。
ーーそもそもchihiRoさんとtowadaさんが音楽にふれたきっかけや影響を受けたアーティストから教えてください。
chihiRo 一番影響を受けているのは、DREAMS COME TRUEですね。小学校の頃から歌手になりたくて、ドリカムさんが登場されてから「指標になる人が現れた」と感じていました。高校1年生からボイストレーニングに通い始めたんですが、歌い方がドリカムの吉田美和さんにそっくりすぎて、先生からドリカム禁止令が出るくらい(笑)。
そのボイトレは家から一番近い場所にあって「そこならいいよ」と母に言われて行ったんですが、ポップスではなく、ジャズのスクールだったんですよ。それが、ジャズとの出会いでした。
chihiRo(vo)。神奈川県生まれ、O型。趣味は睡眠。ラーメンが好き。
towada 幼少の頃からクラシックに囲まれていて、6歳からクラシックピアノの教育を受けていました。中学生になってからはTHE BLUE HEARTSなどのバンドの音楽を聴いて、13歳でドラムを始めて、モテたい一心でバンドを組んだことも。当時はレコード店で、自分の感性に合う作品を発掘することが好きだったので、周りの友達が聴いていないジャズのレコードを買って、よく聴いていたんです。
(アメリカの伝説的ジャズトランペッター)マイルス・デイビスでジャズに目覚めて、それからは管楽器を手にするようになりました。その後はヘビーメタルを聴くこともあったりと音楽の遍歴はありましたが、高校を卒業してから「ジャズの近くにいたい」と思い、シカゴ音楽大学に籍を置いてジャズを聴き、帰国後にバンドを組みました。
ーーおふたりはもともと知り合いだったのですか。
chihiRo 2002年にジャズのライブでtowadaと出会いました。
towada そのときは、chihiRoの歌は良いと思いましたが“ジャズは全然興味がない”感がすごくて(笑)。ただ、そのあとバンドを組もうとなったときに、「ジャズには窓口が必要」という話になり、出会ってから半年後くらいにchihiRoに連絡をして、結成に至りました。
ーー2006年にシングル「like ameba」でデビューされてから2021年でデビュー15周年、来年は結成20年となりますね。
chihiRo 振り返ると、長くもあり、短くもあり。私たちは90年代に多感な時期を過ごしていたのですが、そこから20年前というと、70年代の音楽なんだなあと。
towada それぐらい時代が流れているんだなと思うと、けっこう長く活動していると感じるときもあります。自分たちはCDを作るために音楽制作をやっていますが、いまはあらゆるメディアがあって、CDをアルバムとして購入することはほとんどなくなってきていますよね。ストリーミングでみなさん聴いていらっしゃるなかで、どうやって表現していけばいいんだと頭を悩ませたときに、「時代が変わったんだなあ」と実感することも。
chihiRo ジルデコがデビューするときには、すでにCDが売れない時代と言われていましたが、それでもこの20年はなんとかリリースしてこられました。
towada (dr)、リーダー。東京都生まれ、O型。義理人情にかたく、問題課題が難解なほど燃えるタイプ。
ーー移りゆく音楽環境のなか、いま日本のシティポップが世界中で注目を集めています。なかでも、1979年に発売された松原みきさんの「真夜中のドア~Stay With Me」は世界中で話題となっていますが、同曲をジルデコもカバーされて、2021年3月に日本語で、4月に英語で配信リリースされましたね。
chihiRo 「真夜中のドア」は、70年代にポニーキャニオンからリリースされていて、当時まだ私はお母さんのお腹の中にいる頃で、全然知らなかったんです。でも、今回カバーをする企画があり、お声がけいただいて。
towada 僕たちは最初、ポニーキャニオンからリリースさせていただいたので、ご縁を感じてカバー曲の配信リリースにつながりました。
ーーカバーされてみて、オリジナル曲を歌うときとは違いますか。
chihiRo 70年代の作詞家さんが書かれた詞というのは、歌い手が自分の魂や思いをこめるというよりも、一歩引いて詞の世界を演じているようで。それは原曲で松原さんが歌っている時点でも感じて、自分の気持ちとして歌うよりも、ちょっと女優になった気持ちで歌いました。
ーーJiLL-Decoy association feat.BASI(韻シスト)の曲「イヤホンを外したら」は、イギリスのApple Music「J-Pop トップミュージックビデオ」で1位になったそうですね、2018年に発表した楽曲です。
towada はい、うれしいんですが、今年突然1位になったのか、配信当時も上位だったのか。
chihiRo 海外の状況ははっきりとわからないんですよね。
towada 1度デジタル配信すると、世界中とつながるので、どことどうつながってどういう国の人にハマるのか、面白いですよね。
chihiRo この間も、アラブ首長国連邦で『ジルデコDUO〜Zinger〜』(2018年)というアルバムが1位になりまして。どこをどう頑張ったら、そこに響くのかが全然わからないです(笑)。
towada シティポップが世界中で認められるようになってから、日本語だと海外の方に響かないという傾向が減ってきた感じがします。昔は海外の方にわかるように英詞でやろうという考えもあったんですが、いまは逆に、日本語だと興味を持っていただくこともあるのかもしれません。
新曲を連続発表するデビュー15周年プロジェクト
ーーデビュー15周年イヤープロジェクトとして、新曲を連続リリースする「ジルデコ10~double~」シリーズを展開されるとのこと。2021年6月23日に、第1弾シングル「ダブル」を配信されますね。
towada ちょうど今年の6月がデビューの月で、全国ツアーやリリースの標準をそこに合わせていました。一昨年メンバーがひとり抜けまして、その次にリリースするアルバムであること、ジルデコのアルバムは「1」からシリーズになっていて次が「10」で区切りになることもあり、すごく大切なタイミングだということがベースにあります。
でも、計画を立てたときにはコロナ禍がここまで長引くとは思っておらず、いまはライブもできるかわからない状況と、なかなか集まれなくて制作の仕方も昔とは勝手が違って。当初アルバムをリリースする予定でしたが、それで1回リリースしました、と点にするのではなく、この状況下だからこそ6月からの半年間、年内はずっとリリースし続けようという企画に変更しました。今回の作品やライブで集まるメンバーも、20年来のミュージシャン仲間が多く、1回で終わらせるのも寂しいので。
ーー第1弾シングルの「ダブル」は小気味良いテンポで聴かせるナンバーですが、サポートメンバーの石田衛さんが作曲を、ジルデコのおふたりが作詞を担当されています。1曲目の配信曲に選んだ理由はなんですか。
chihiRo 曲を聴いたときに、これがアルバムの象徴になると、お互いにビビッときていたので「1曲目だね」と異論なく決まりました。
ーー「ダブル」の意味合いはなんでしょうか。
towada 時代の二面性をデザインするという意味が込められています。いま時代の変化が急速に起こっているなかで、さらにコロナ禍で大変だけれど、この状況じゃなければどんな日々を過ごしていたのかと、想像することがあるんです。過去から今を見るのか、未来から今を見るのか。見方が違うだけで、いま何をなすべきかが、わかってくる。
いま曲を作るとしたら、応援歌でもなく、自分がこれだけ頑張っているという話でもなく、恋愛の話でもないと。いまをどう生きて、古き良きことと、古き悪しきことをうまく選別して、良い未来にしていこうというふうに作るしかないと感じました。大切なところを残していきたいという強い思いがあるということですね。
chihiRo コロナ禍だとしても、そうではなかったとしても「自分はこうしていただろう」と思って行動していかないと、なんでもコロナのせいにしてしまうだろうし、それは違うだろうなと。
towada 歌詞の最後に「ダブルスタンダード」という言葉を使わせていただいたのですが、「ダブルスタンダード」って、あまりプラスの意味で使われない言葉ですよね。でも、良い面と悪い面の2つの意味を持つことも、前向きに見ていくと良いのではという思いも含まれているんです。
chihiRo いま自分が本当に思っていることしか、歌詞には書けないから。みんなと共有したいこともとても明確なので、それをどのように表現していくか。ジルデコの曲は、ゲーム感覚に近いんです。悔しい、悲しい思いをちょっと面白おかしく書いてみたりしながら「ジルデコってこんなことを考えているんだな」と、伝わっていけばいいなと思っています。
ーー今後も、連続配信のご予定だと、その都度反響がわかりますね。
towada テレビドラマじゃないですが、反響にそって、アレンジや最後の歌入れや歌詞も変化させていけますね。今年の終わりぐらいにはコロナ禍を脱する、先が見えたねという歌詞や、歌い方になることを希望しています。
20周年に向け今後もジルデコらしさを大事にする
ーーお話は変わりますが、おふたりは、おうち時間をどのようにお過ごしですか。
chihiRo 私は小さい子どもがいるので、なかなか自分の時間はないんです。でも、自分たちで立ち上げた会社があるので、毎日みんなで集まって仕事していて、そのなかで手作りのご飯をおいしく食べています。といっても、おもに作るのはtowadaやスタッフで、私は料理しませんけども(笑)。
towada 僕はおもにご飯を作っていますね(笑)。
chihiRo 私は顆粒ダシでサッと済ませるタイプなんですが、towadaはいろいろなものからダシをとって、みんなで味わうことが好きなんです。
towada 全然、カップラーメンも化学調味料も気にならないタイプなんですが、自分で作るとなると、ダシって楽しい。
ーー足したりアレンジするという意味では、曲作りとダシ作りは、似ていたりするんでしょうか。
towada けっこう似ていますね!
chihiRo 本当〜!?
towada 作業的には音作りと似ているんですが、料理はよりレスポンスがあるので良いですね。音楽はこちらが苦労して作っても、その部分はまったくスルーされることもあるんですが、料理は反響がそのままかえってくるから、ストレスが発散できます(笑)。
chihiRo 確かに、曲を聴いても苦労したところは「ああ、言われてみれば……」という感じで(笑)。
towada でも、料理を頑張ればすぐ「おいしい!」って言ってもらえるのでうれしいですし、それって素敵なことだと思うんです。家には子どもが3人いるので、大量にご飯を作らなきゃいけないときもあって、普段から料理しているので、会社でも貢献しようかなと(笑)。
ーーおいしそうですね(笑)。ところで、美容面や健康面で気をつけていることはありますか。
chihiRo 普段あまり化粧品に気を使わないタイプなのですが、化粧水はよく使って、保湿を心がけています。あとは、キムチや味噌汁などの発酵食品をよく摂るようにしていますね。腸を元気にすると、調子が良くなる気がするんです。
towada 僕はとにかくお酒をすごく飲むんですが、健康な状態でお酒が飲みたいと思っていて。ここ1年はシジミを味噌汁に入れて食べています。あとコンスタントに続いているのは、内臓脂肪が減るといわれている、お酢をとりいれること。炭酸水を買ってきて、お酢を入れて飲んだりしています。
ーーでは最後に、今後の抱負をお聞かせください。
chihiRo 来年は結成20周年なので、コロナ禍が良くなっていることを願って、ライブを組みたいですね。1年前から、いまはオンラインサロンという形で、月額制で月に2、3本のライブも行っていて。音楽は不要不急じゃないといわれることもありますが、音楽でコミュニケーションを取り続けることはすごく大事だと感じた1年でもあったので「どうにか音楽を届け続けたい」という思いで、配信を中心にやっています。有観客でのライブシーンが戻ってきても、きっと配信ライブも続けると思いますね。
towada 今後も、生配信であろうとなかろうと、ライブをひとつの作品にしたいんです。配信ライブではただライブ映像を流すということではなく、「これは作品である」ということ。ミュージシャンとして大切にしなきゃいけないのは、価値を下げないことだと思っています。「タダでいつでも観られるからいいや」となると、聴いている人も楽しめないし、なかなか興味を持たないことも。今後も時代に合わせながらも、ジルデコらしさを大事にしていきたいと思います。
取材後記
ジャズバンドであり、ライブバンドとしても活動され、現在の2人体制となってから今回が初めての取材になったという、JiLL-Decoy associationのchihiRoさんとtowadaさん。ananwebの取材ではchihiRoさんの素敵な笑顔とtowadaさんのダンディな声に癒されました。そんなジルデコのニューシングルをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。
写真・安田光優 取材、文・かわむらあみり
JiLL-Decoy association PROFILE
chihiRo (vo)、towada (dr)によるジャズバンド。2002年結成、2006年メジャーデビュー。2013年、アルバム『ジルデコ5』が「第55回日本レコード大賞」の<優秀アルバム賞>を受賞。A-HAの「Take on me」をジャズアレンジしたミュージックビデオが話題を呼び、海外のテレビでも紹介される。
ビルボードライブ東京、東京ジャズや日本全国のジャズフェス、国内最大級のロックフェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL」にも出演。2019年3月、『ジルデコ9 〜GENERATE THE TIMES〜』をリリース。初のビッグバンドも参加し、築き上げてきた「ジルデコのジャズ」をすべて日本語で歌い上げた。
2021年、デビュー15周年イヤープロジェクト「ジルデコ10~double~」シリーズを発表。2021年6月23日、第1弾シングル「ダブル」を配信リリース。
6月19日「JiLL-Decoy10 “ double LIVING” vol.1 」、6月29日「Play Jenga with 菅原信介」(ともに収録配信)を実施。
Information
New Release
「ダブル」
2021年6月23日配信
JiLL-Decoy association オフィシャルサイト
http://www.jilldecoy.com/