須田景凪「主題歌は青く未熟なさまを書きたかった」映画を彩る歌たち

【音楽通信】第124回目に登場するのは、ボカロP「バルーン」としても活躍しながら、現在は自分の声で歌うシンガーソングライターとしても活動し、とくに若い世代から絶大な人気を誇る、須田景凪(すだけいな)さん!

ドラムに魅せられたのちボーカロイドの世界へ


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【音楽通信】vol.124

2013年から「バルーン」名義でボカロPとして活躍、代表曲「シャルル」はセルフカバーと合わせて1億4000万回の再生回数を記録、3年連続で10代カラオケランキング1位になるなど若い世代の方を中心に絶大なる支持を獲得するなか、2017年からは自身の声で歌う「須田景凪」として活動を開始された須田景凪さん。

バルーンとしても、須田景凪としても、注目を集めているなか、2022年10月7日に公開のアニメーション映画『僕が愛したすべての君へ』の主題歌と挿入歌となる両A面シングル「雲を恋う(くもをこう)/落花流水(らっかりゅうすい)」を配信リリース。さらに、声優としてもゲスト参加されたということで、お話をうかがいました。

――そもそも須田さんの音楽との出会いから教えてください。

ずっと音楽が流れている家庭で育ちました。両親ともに洋楽をよく聴いていた気がします。小学生のときに、幼馴染みから「かっこいい人たちがいる」とポルノグラフィティさんの曲「アポロ」を聴かせてもらって、その存在を知って。当時、アニメ『鋼の錬金術師』(MBS・TBS系ほか 2003〜04年)をよく観ていたんですが、ポルノグラフィティさんがオープニング曲を担当していた「メリッサ」という曲があって、そこで「音楽ってめちゃくちゃかっこいいな」と感じました。

その後、中学2年生のときに同じ幼馴染みから、ポルノグラフィティさんのライブDVDを観せてもらって。サポートのドラマーの方がめちゃくちゃかっこよくて、その影響で自分でもドラムを習うようになりました。ドラムって全身を使ってダイナミックに動くじゃないですか。そこにすごく惹かれて、自分で楽器をやるようになったのは、それが入り口です。中学2年生から、高校、大学と長くドラムをやっていましたね。

――ドラムをされていたら、バンドを組みたいという方向にはいかなかったのでしょうか。

高校1年生から、組んだバンドがあって。そのバンドで売れたいから音大に行くというぐらい、本気でやっていましたね。大学は音大に行きましたが、そのぐらいの熱量を持って、ずっとドラムをやっていました。

――では作詞作曲はいつ頃から?

大学2年生ぐらいからですね。先ほどお話ししたバンドは、自分と高校の先輩とのツーピースバンドで、先輩が曲を作っていました。その当時はまだ自分自身では作曲のイロハも何もわからないときだったので、「ここをもっとこうしたらかっこいいんじゃないか?」というアイデアをわからないなりに先輩に話していたのですが、先輩と後輩という上下関係もあって、作曲する人は全員こだわりがあるのでことごとくアイデアが通らなくて。

そんな状態が2年ぐらい続いて、ふと、そのアイデアだけで何曲か作れるんじゃないか? と思ったんです。その当時、自分はニコニコ動画というプラットフォームでゲーム実況の動画をよく観ていて。だから、ボーカロイドの存在も、もちろん知っていました。ボーカロイドカルチャーにはいろんな方がいらっしゃいますが、1週間前に作曲を始めました、というような人もいて。間口がとても広い環境なんです。


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しかも、ボーカロイドだったら、自分の音楽におけるワガママを100パーセント歌ってくれるというところから、「ボカロを用いて作曲したい」と思うようになりました。その頃はドラムしかしたことがなく、コーラスさえもしたことがなかったので、そもそも歌うという選択肢がなかったんですよね。

作曲と同時にギターやピアノも始めたんですが、鼻歌で歌いながら曲作りをしていくなかで、それを続けていくと歌うことも好きになって、いまにつながるという感じです。

――もともと音楽の才能をお持ちだったんですね。

才能というものをあまり信じていないんですが、もともと一人っ子ということもあって。昔から、一人遊びをするのが好きなんです。淡々とした作業を黙々とやるのが好きで、自然と没入していったんだと思います。

――ボカロPのバルーン名義で発表された代表曲「シャルル」は大ヒットされましたが、活動においてターニングポイントになった曲ですよね。

そうですね、あの曲があったから、その後いろいろな可能性が広がっていきました。それと同時に、良い意味でボーカロイドカルチャーも変わった、と言っていただけることもあるので、「シャルル」という曲を書くことができて良かったです。

――2017年10月には、ご自身で歌う「須田景凪」での活動を開始されました。「バルーン」から「須田景凪」へ活動スタイルを切り替えたきっかけは何だったんでしょうか。

「シャルル」のセルフカバーは多くの方に聴いていただいていますが、ほかのバルーン名義の曲も、実は以前からときどきセルフカバーをしていました。例えば「朝を呑む」という曲とか。歌いたいから歌ってみたら、考えていたよりも何十倍もの方々に聴いていただいて、ありがたかったと同時に、考えるようにもなって。自分のなかで、バルーンというボカロPの楽曲は、誰が歌ってもカッコいいものを目指しているんです。でも「シャルル」は、8割くらい、自分が歌うために書いた曲だったので、それだと伝え方も変わってくると思いました。

最初に曲を作るときに、ボーカロイド名義で歌うもの、自分で歌う名義のもの、と分けるようにして。それを決めないと、自分自身が混乱してしまう時期があったから。もうひとつの理由は、これはあくまで自分個人の考えなんですけど「ボカロPとしてのバルーンという人間を好きでいてくれる方がいたとして、ずっと追っていったら気づくともう自分の肉声でしか歌わない時期が生まれたら、それはもうボカロPじゃないよね」と自分では思ってしまって。僕は同時にいろいろなことをするのが苦手なので。それならしっかり名義を分けたほうが自分的にもリスナーの方的にも健全なのかな、と思い名義を分けました。

どちらの名義でも、「良いものを書く」ことは、変わらない。ただ、須田景凪としての活動のほうがよりいっそう、自分の気持ちをのせやすいものを書いています。

アニメーション映画の主題歌と挿入歌を配信リリース


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――2022年10月7日に両A面シングル「雲を恋う/落花流水」を配信リリースされました。

「雲を恋う」は、映画『僕が愛したすべての君へ』の主題歌のオファーをいただいてから、そのときは映画を作る前の段階だったので、原作の小説を読ませていただいてから書き下ろしました。その後、主題歌を書き終わってから、絵コンテを見せていただく機会があって。挿入歌となった「落花流水」も作らせていただきました。

この“僕愛”と同時に公開される、もうひとつの映画『君を愛したひとりの僕へ』では、“僕愛”で主題歌だった「雲を恋う」が挿入歌になっています。

――2曲とも映画にぴったりで、とても物語の世界観を大事に、曲を描かれていますね。

“僕愛”と“君愛”のどちらの作品を読んだときも、どちらも「自分」という核が強くあったうえでその後のストーリーの展開が起きていて。あえて「雲を恋う」では一人称、完全に自分目線で、青く未熟なさまを書きたいという気持ちが強くありました。このタイトルは、ことわざの「籠鳥雲を恋う(ろうちょうくもをこう)」からきています。とらわれている存在が自由な境遇に憧れているさまという意味なんですが、映画の主人公が感情を吐露できないもどかしさとリンクする部分があり、そこからつけましたね。

そして仮に同じ人と何百年一緒にいたとしても、100パーセントわかりあうことは絶対にできないと思っていて。あくまで、ひとりとひとり、という部分は変わらない。でも、深い関係になるほど、ふたりだけにしか伝わらない空気感、密度だけでしか成り立たないものが増えてくるので、そういう部分にフォーカスして書きました。

――では、「落花流水」はどのように曲作りされましたか。

「雲を恋う」が一人称だとしたら、「落花流水」は三人称、俯瞰で見ている曲です。曲調は、挿入歌を初めて担当させていただくので、「雲を恋う」のミディアムスローな曲調よりもちょっとギャップがあったほうがいいなというところから、ストレートなJ-ROCK、J-POPを目指してできあがりました。

――今回、映画にはゲスト声優としても参加されたことのみが発表されていますが、須田さんのせりふがどこなのか、観ていて最後までわかりませんでした(笑)。

ということは、作品に馴染んでいたんでしょうか…。そういう意味では良かったです(笑)、初めてアフレコをさせていただいて、めちゃくちゃ難しかったです。歌も演技的要素はあるとは思うのですが、声優さんは100パーセント演技なわけじゃないですか。そこを振り切ってやるのって、当たり前ですが、すごい作業だなあと思いました。

あと、担当させていただいたのは、本当につぶやくようなひとことだけのせりふなんですが、実際につぶやくだけだと映画で観たときに何を言っているか聞こえないし…。その空気感を推し量るのも難しくて、新鮮な作業でした。アニメーションと合わせてしゃべる、というのもすごく難しかったですね。


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――須田さんのファンの方には歌以外にも、映画のどの場面で声優としての声が聴けるのか、探すのも楽しみのひとつになりますね。では続いて、今回のシングルのジャケ写についても、お聞かせください。

以前から好きな映像作家のtoubou.さんに描いていただきました。今年の3月に、toubou.さんが自主制作で出された『さざなみの少女たち』という、声や音楽以外、すべておひとりで作られて完結されている作品があって。それがめちゃくちゃ素敵で、単純にいちファンとして観ていて、今回のお話をしたら快く引き受けてくださいました。

――“僕愛”と“君愛”の映画のトークショーに、主人公の暦の声優をされた宮沢氷魚さんと、“君愛”の主題歌を担当したSaucy Dogさんとともにご出演されていましたね。ライブ以外で人前に出るというのは非常に珍しいのではないですか。

そうなんですよ。基本的に人前に出るときは歌うときなので、まさかトークだけで出るなんて(笑)。

――宮沢さんとはもともと面識はあったのですか。

宮沢さんは、「昼想夜夢」という僕のワンマンライブに来てくださったことがあって、ご挨拶させていただいて。そのときはライブが終わって5分後ぐらいだったので、記憶がだいぶ曖昧なんですが(笑)、とても親しみやすい方だなと思った印象があります。トークショーで久しぶりにお会いできて良かったです。

誰が聴いても「いいよね」というポップスを追求


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――お話は変わりますが、最近ハマっているものはありますか。

ダメージ加工のファッションが好きで、穴があいているデニムやスウェットも好きなんです。でも穴があいていなくても、「このパンツに穴があいていたらいいのにな」と思って、最近は自分で穴をあけていて(笑)。加工するときは、諸説あるんですがいろいろと調べまして、段ボールカッターで切ると、ダメージ加工ぽくなるかなあと試しています。

――スタイリッシュな印象のある須田さんですが、今日もピアスがたくさんついていて、アクセサリーにもこだわりがありますか。

今日は全部の穴にピアスをつけていませんが、全部で10個、耳に穴があいていますね。身につけているアクセサリーなどは、すべて私物です。ファッションは、そのときに着たいものを着て、アクセサリーもそのときにつけたいものを選んでいて。指輪はもっとつけたいですが、ギターを弾くときに邪魔になるので、必要最小限だけにしています。とくに左手はコードを押さえなくてはいけないので、多くはつけられません(笑)。でも、指輪をつけると気持ちが切り替わって、オンモードになれます。

――シルバーアクセサリーがお好きなんですか?

アイテムとしての色味だと、本当はピンクゴールドが一番好きなんですが、自分には似合わないので。結果的に、自分でもつけて好きなのは、くすんだシルバー系ですね。

――ときどきInstagramなどで猫ちゃんの写真をアップされていますね。

もう3〜4年前から飼っている、サイベリアンという種類の猫です。「ふとん」という名前です。小学1年生ぐらいから、ずっと実家で猫を飼っていました。たとえば、街に一軒、猫屋敷ってあるじゃないですか? 僕の家がそうだったんです(笑)。家の外には常に5、6匹猫がいて、家の中にも5、6匹いて、だから猫がいるのが当たり前で、いないほうがソワソワしてしまいますね。でも猫は、ただ家にいて別の生活をしている存在、という認識なので、飼っているという認識もあんまりないところが楽ですし、好きですね。

――いろいろなお話をありがとうございました! では最後に、今後の抱負をお聞かせください。

5月にワンマンライブがあったり、夏はフェスにも初めて出演させていただいたり、そこで来てくださった方々が、「シャルル」をはじめとして曲を知っていて反応してくれたことがすごくうれしかったんです。自分のやっている音楽はポップスだと思っているんですが、ポップスって誰が聴いても「いいよね」と思える力があるものだと感じているので、そういうものを自分でももっと突き詰めていきたいです。それが結果的に、自分の活動にプラスにつながっていったらいいなと思います。

取材後記

ボーカロイドカルチャーが変わるほどのヒット曲を生み出すボカロP「バルーン」としても、ご自身の声で歌う「須田景凪」さんとしても、数々の多彩な楽曲を聴かせてくださる須田さん。ananwebの取材時、撮影ではミステリアスな魅力を放ちながらも、インタビューでは柔和な物腰でひとつずつ丁寧に応えてくださいました。そんな須田さんのニューシングルをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。


写真・山本嵩 取材、文・かわむらあみり
ヘアメイク・牛玖文哉 スタイリング・荒木大輔

ジャケット¥68,200(税込)、スウェット¥85,800(税込、ともにstein)
問合先:ENKEL tel.03-6812-9897

須田景凪 PROFILE

2013年より「バルーン」名義でニコニコ動画にてボカロPとしての活動を開始。
2016年に発表された代表曲「シャルル」はセルフカバーバージョンと合わせ、YouTube での再生数は現在までに1億4000万回の再生を記録。JOYSOUNDの2017年発売曲年間カラオケ総合ランキングは1位、年代別カラオケランキングの10代部門では3年連続1位を獲得し、現代の若者にとって時代を象徴するヒットソングとなった。

2017年10月、自身の声で描いた楽曲を歌う「須田景凪」として活動を開始。
2021年2月、メジャー1stフルアルバム『Billow』をリリースし、オリコンウィークリーチャート7位にランクイン。作詞作曲編曲のすべてを手掛け、ベットルームで音源制作からレコーディング、音源発表まで行い、多くの若者から支持を集めている。

2022年10月7日、ニューシングル「雲を恋う/落花流水」配信リリース。

Information


須田景凪「雲を恋う」「落花流水」J写

New Release
「雲を恋う/落花流水」

(収録曲)
01. 雲を恋う
02. 落花流水

2022年10月7日発売


須田景凪 オフィシャルサイト
https://www.tabloid0120.com/

須田景凪 バルーン Twitter
https://twitter.com/balloon0120

須田景凪 バルーン YouTube
https://www.youtube.com/channel/UC3Bjw_Ek1FTbhEKZsh9uo1w