コラム25年ぶりでも感動!コロナ禍で再放送された『愛していると言ってくれ』に見た、作品力の普遍性

こんにちは、テレビウォッチャーで、ライター・エディター・コラムニストのかわむらあみりです。Suits WOMANでテレビをテーマにした連載コラムを書いています。

今回は、90年代の名作ドラマ『愛していると言ってくれ 2020年 特別版』(TBSほか)をご紹介します。

25年ぶりの再放送でも衰えない“純愛ストーリー”

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榊晃次(豊川悦司)と水野紘子(常盤貴子)の
2度の出会いをつなぐのは“リンゴ”。

コロナ禍で“STAY HOME”をせざるを得なかったため、今シーズンのドラマ収録は難しく、異例の休回が起きています。そんななか、うれしいのは、かつてわたしたちを楽しませてくれたドラマの再放送が増えたこと。今回紹介するドラマ『愛していると言ってくれ』も、そのひとつです。

もともと『愛していると言ってくれ』は、1995年7月期に全12話で放送された“恋愛ドラマの神様”と称される北川悦吏子さん脚本の連続ドラマ。最高視聴率は28.1%を記録し、DREAMS COME TRUEが歌う主題歌「LOVE LOVE LOVE」は約250万枚の大ヒットとなった、記憶にも記録にも残る名作です。

今回は、「2020年 特別版」を5月31日から4週連続で再放送。特別企画として、ダブル主演を務めた豊川悦司さんと常盤貴子さんの“リモート同窓会”企画も行なわれ、撮影当時の知られざるエピソードを語っていたのも、視聴者にとってはうれしいサプライズになりましたよね。

ドラマでは、聴覚に障害のある新進青年画家・榊晃次(豊川)と、女優を目指す劇団員の水野紘子(常盤)との純粋で繊細なラブストーリーが描かれています。

放送当時は、今のようにLINEやメールはおろか、携帯電話が多くは出回っていないとき。若者たちの通信ツールのメインは“ポケベル”での数字メッセージ(たとえば「14106」=「愛してる」と読み取るんですねえ)という時代で、劇中でも出てくる“ファクス”でのやりとりも(しかも当時のファクスは高価でした)、いたって普通のことだったんです。

これら25年前の旧ツールが活躍するドラマなのに、2020年の今観ても色褪せず、晃次と紘子のやりとりに胸が熱くなってしまうのはなぜでしょうか。その理由に迫ってみたいと思います。

まず脚本を手がけた北川さんは、『愛していると言ってくれ』の前に、1992年には今はとんねるず・木梨憲武さんの奥様としても知られる女優の安田成美さんと昭和の歌姫・中森明菜さんのダブル主演ドラマ『素顔のままで』や、1993年には石田ひかりさん、筒井道隆さん、木村拓哉さんらが出演した『あすなろ白書』(ともにフジテレビ系)などで、すでにヒット作を連発。以降、現在にいたるまで、さまざまな人気作を手がけています。

友情、愛情、駆け引き、ずるさ、まっすぐさ、すれ違い……といった登場人物たちの心のうちを見事に描写。今も昔も変わらないのは、それぞれのキャラクターの“人間らしさ”を浮き彫りにしていること。とくに主人公や相手役に、視聴者をキュンとさせる行動をとらせるなど、女性の心をグッとつかんで離さない脚本の力があります。『愛していると言ってくれ』では、言葉でのコミュニケーションが難しいふたりが、もどかしさにとわられながらも、純愛を貫こうともがきます。

また、ヒロインの紘子役を演じる常盤さんは、このとき、まだデビューしてから数年という状態。1993年に出演したドラマ『悪魔のKISS』(フジテレビ系)での体当たりの演技が評価され、『愛していると言ってくれ』では豊川さんの恋人役に抜擢されましたが、感情の起伏が激しいながらも純粋な紘子を演じきって、これで確実に女優として頭ひとつ抜けた印象がありました。

感情のまま、ド直球で晃次に言葉や手話を投げかけたり、喜怒哀楽を表す紘子は時に微笑ましく、時に「おいおい、それもうちょっと考えようよ!」と思わずツッコンでしまいたくなることも。たとえば、晃次に「聞こえないのって、どんな感じ?」と好奇心いっぱいにたずねる紘子。悪意がないからこそ成立するやりとりでもあるため、晃次も紘子の裏表のなさに、素直に「夜の海の底にいるような感じ」と、ワープロ(う〜ん、なつかしい)で返事をする場面がありました。そんな紘子の感情のままに行動する気質は、後に、幼なじみの矢部健一(岡田浩暉)らとの波乱を呼んでしまうんですけどね……。

そしてなんといっても、筆者も当時からどハマりしたのですが、晃次役を演じる豊川さんの魅力にまいってしまう女性が、25年経った今回も続出したんです。

豊川悦司の澄んだ瞳に吸い込まれそう! トヨエツ・常盤・北川の力が集結

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『愛していると言ってくれ』のメインロケ地と
なった東京・井の頭公園。

『愛していると言ってくれ』では、聴覚に障害のある新進青年画家・榊晃次という難しい役を演じた“トヨエツ”こと豊川悦司さんは、劇中で水野紘子(常盤貴子)が女優を目指すように、実際に大学時代に芝居に興味を持ち劇団員を経て、俳優へ。1992年から93年に放送されたSF特撮ドラマ『NIGHT HEAD』(フジテレビ系)では、今ではムキムキの筋肉バディとサックス演奏で話題を呼ぶ武田真治さんとともに超能力を持つ兄弟役を演じてカルト的な人気を博し、95年『愛していると言ってくれ』で本格的に大ブレイクを果たしました。

こうして当時から女性視聴者のハートをわしづかんでいたトヨエツですが、今、その頃を知らない世代の人にとっては、2018年のNHK連続テレビ小説『半分、青い。』での少女漫画家・秋風羽織役として注目した方も多いはず。こちらも『愛していると言ってくれ』を手がけた北川悦吏子さんが脚本を担当していますし、おふたりの深い信頼のもと生み出されたキャラクターが存在感を発揮していました。

今は、小麦色の肌にメガネとパーマスタイルのトヨエツ。25年前のようなナイーブさは消え、精悍でたくましい姿になりましたが、『愛していると言ってくれ』でみせた色白で黒目がちの切れ長の瞳、サラサラの黒髪、186cmはあるというすらりとした長身は紘子だけでなく、視聴者をもドキッとさせてくれる清潔感と魅力にあふれています。大きくて細いきれいな手で行なわれる手話は、神聖なものとして、視聴者の目に映っていたのかもしれません。

また、だいたいにおいて長袖Tシャツか白いシャツ、チノパン、ビーチサンダルといったラフなスタイルの晃次。シンプルだからこそ光る“晃次スタイル”は、実はトヨエツの大学時代の先輩がモチーフだったことを“リモート同窓会”の裏話で告白していました。とはいえ、やっぱりトヨエツが着こなしてこそ、演技してこその“晃次スタイル”のスマートさだといえるでしょう。

そして劇中では、晃次たちはよく走っていました。トヨエツの長い手足で走る姿は、汗臭さとは無縁!とにかく何をしていてもキュンとさせてくれるトヨエツ。東京のさまざまな場所も登場し、晃次と紘子がデートした井の頭公園、ふたりがなぜか反対ホーム同士でいることが多い京王井の頭線・井の頭公園駅など、その場所に行くとドラマのことを彷彿とさせます。

あるとき、晃次が昔の恋人・島田光(麻生祐未)と再開する「世田谷◯◯美術館」(一瞬しか映らず◯◯は不明だった)という場面があり、同ドラマ放送後に上京した筆者は、「東京に行ったら『愛していると言ってくれ』に出ていた公園や「世田谷〇〇美術館」に行こう!」と張り切って出向いたことを思い出します。今映像を見返すと、世田谷〜というのは設定で、実際には「平塚市美術館」がロケ地だったことを25年経って気づきました。おお……。

恋愛ドラマとしても人気のある『愛していると言ってくれ』ですが、東京駅の新幹線ホームでトヨエツが新幹線の中にいる生き別れた実母・道子(吉行和子)と“親子の絆のキツネ”の手話で心を通わせる場面があり、ここで号泣する人も続出。実は家族のことについてもしっかりと描かれている、ホームドラマの要素もあったんですよね。

また、同ドラマが放送された1995年は1月に阪神・淡路大震災、3月には地下鉄サリン事件があるなど、日本中に激震が走った年。2020年は、コロナ禍に影響された年でもあり、そんな今再放送されたからこそ、この純粋な物語が再び人々の支持を得るのでしょう。

人の心のドアをノックする、北川さんの脚本、豊川さん、常盤さんがみせる演技。それらが一体となって、普遍性を持つ高い作品力が生み出されたのです。これからもまたどのような作品が放送・再放送されるのか、楽しみにしたいと思います。

『愛していると言ってくれ 2020年 特別版』
https://topics.tbs.co.jp/article/detail/?id=9237