コラム『半沢直樹』“緊張と弛緩”がもたらす外連味! パワーキャラが炸裂する高カロリードラマ

こんにちは、テレビウォッチャーで、ライター・エディター・コラムニストのかわむらあみりです。Suits womanでテレビをテーマにした連載コラムを書いています。

今回は、日曜劇場『半沢直樹』(TBS系 毎週日曜午後9:00)をご紹介します。

“緊張と弛緩”がもたらすハラハラドキドキの心理戦

相変わらず目力の強い半沢(堺雅人)。(c)TBS

堺雅人さん主演の日曜劇場『半沢直樹』が、 社会現象となった前作に続いて、 またもや高視聴率を記録して大反響を呼んでいます。ベストセラー作家・池井戸潤さんの「半沢直樹」シリーズを原作に、今回は『ロスジェネの逆襲』と『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社/講談社文庫)を映像化したドラマで、東京中央銀行のバンカーから、出向先の子会社である東京セントラル証券の営業企画部部長となった半沢直樹(堺雅人)が、職務上での敵と戦い、組織と格闘していく姿が描かれています。

大人気ドラマの第二弾ということで、第一弾の人気キャラクターもお目見えしています。8月2日放送の第3話では、東京セントラル証券に立ち入った金融庁証券取引等監視委員会の部下たちをかき分けて、まっすぐと半沢の前に立ち「お久しぶりねぇ」と登場した、片岡愛之助さん演じる黒崎駿一統括検査官に釘付け。半沢の因縁の相手でオネエ口調というクセのありすぎるキャラクターのうえ、部下に檄を飛ばすための“急所づかみ”を第3話では2回も披露し、SNSもざわついていましたよね。

ほかにも、「相当めちゃくちゃ激しくヤバいぞ」と焦る半沢のパソコンを没収し、黒崎が部下に逆買収計画書の証拠を探させている間、「直樹がね、ネットでヨチヨチかくれんぼ♪」と妙な替え歌童謡を歌い出す黒崎。証拠をつかまれるか、つかまれないかという緊迫感あふれるシーンなのに、黒崎のおかしな暴走に思わず、吹き出してしまったのは筆者だけではないはずです。

実はこの“緊張と弛緩”が、ドラマ『半沢直樹』をヒットさせる一因となっているのではと感じています。“緊張”という意味では、攻防戦を繰り返す劇中は、思わず手に汗握るハラハラするシーンがいっぱい。毎回、「次はどうなるの!」「半沢は大丈夫?」と、その身を案じる展開に目が離せなくなります。たとえば、いやがおうでも人が死んでハラハラするという殺人事件が起こるドラマではないのに、そのぐらい毎回ヒヤッとしたりドキドキしたりと、心理戦だけで、ものすごくスリリングな『半沢直樹』。

そして心理戦を盛り上げる音楽も忘れちゃいけません。オープニングや劇中で流れる重厚なあの音楽は、作曲家・服部隆之さんが手掛けた「テーマ・オブ・半沢直樹 〜Main Title〜」。今回のドラマがスタートする前日に、同じTBS系列で放送されていた音楽特番『音楽の日2020』で、この曲ともう1曲を服部さんの指揮のもとオーケストラが生演奏し、その様子を主演の堺さんが見守っていました。

総合司会の中居正広さんが、服部さんと堺さんにインタビューしていたのですが、服部さんはこのテーマ曲は「半沢直樹の生き様にそのままつけているので、ドラマと一緒に聴いていただければ」と話し、堺さんは曲を聴いて「現場では聴けないので、出来上がったものを観てこんな盛り上がるシーンになっているのか」「頑張んなきゃと思いました!」と、迫力あるスペシャルバンドの生演奏に、さらなる気合を入れていました。このテーマ曲が流れることで、『半沢直樹』の世界観がより一層、奥行きを増しているように感じています。

続いては、“緊張”と“弛緩”の両方をもたらしてくれる、出演者について見ていきましょう。

半沢の親友・渡真利(及川光博)も再び登場。(c)TBS

パワーキャラが炸裂! 総じて高カロリーとなっている“半沢歌舞伎”

伊佐山(市川猿之助)のタメの台詞に、思わず「澤瀉屋!」と言いたくなるとの声も。(c)TBS

『半沢直樹』には、主演の堺雅人さん演じる半沢直樹を取り巻く、濃厚な登場人物がたくさんいます。なかでも、先日の放送で大暴れした黒崎駿一統括検査官役の片岡愛之助さん、東京中央銀行取締役・大和田暁役の香川照之さん、証券営業部部長・伊佐山泰二役の市川猿之助さん、ベンチャー企業・スパイラルの瀬名洋介社長役の尾上松也さんら“パワーキャラ”の歌舞伎役者の方々の演技に、熱視線が注がれているのではないでしょうか。

尾上さんはまだ薄めの味付けではありますが、やはり“腹から声出てます!”という舞台をやっている方の持つ芯の太さを感じさせますし、度々話題沸騰となる片岡さん、香川さん、市川さんのお三方が見せる独特の間合い、まったりとした言い回し、感情表現が全開となる“顔を見るとすぐわかる”演技は、まさに匠の技といえるのかもしれません。

啖呵を切るようなシーンも多々ある劇中では、歌舞伎役者の方々が自然と身に付けている所作や存在感が、大いに役立っている気がします。それが歌舞伎役者の方々を起用された理由なのかどうかはわかりませんが、男たちの真剣勝負を体現するのに、歌舞伎役者の方々はまさにハマリ役だといえそう。

「証券 VS 銀行」という男と男のガチンコ勝負では、どのシーンひとつとっても、見逃せない熱量の高さがあります。この続編では、半沢の部下に抑えた演技がいい感じの森山雅弘役の賀来賢人さん、爽やかな風を運ぶ浜村瞳役の今田美桜さんといったロスジェネ世代も登場しますが、基本的にはおじさんたちばかりが画面にひしめきあっている『半沢直樹』。それなのに、むさくるしいどころか、観れば観るほどおじさんたちに引き込まれてしまう“半沢の魔法”にかかってしまうのです。

ピリピリと緊張感あるシーンはもちろん、きっと笑わせたいわけじゃないはずですけど、つい笑ってしまう黒崎や大和田、伊佐山が繰り広げるダイナミックなパフォーマンスは、ほかのドラマにはない味わいで、クセになっちゃいますよね!

でも、そんな濃厚なパワーキャラが時にかすんでしまうほどの凄まじさを放つのは、なんといっても、主役の半沢にほかなりません。堺さん自体は細身でいい人そうな印象なのに、「半沢直樹」になった途端、信念で自分を貫き通す圧倒的なパワーを放つ“無敵感”がスゴいことに。

また、劇中での、半沢が窮地に陥ったときの決めゼリフ「やられたらやり返す、倍返しだ!」を再び聞くことができて、シビレている視聴者も多いはず。原作の秀逸さ、演出や脚本の見事さ、役者のみなさんの素晴らしさがガッツリと組み合わさった結果、国民的大ヒットドラマとなったのですね。

8月9日放送の15分拡大となる第4話は、半沢たちの作戦によって、フォックスの逆買収に成功したスパイラル。ですが、このままでは面子がつぶれてしまう東京中央銀行は、三笠洋一郎副頭取(古田新太)の後押しによって、スパイラル株を買収するために電脳への500億円もの追加融資を強引に進めようとしていたが……はたして、半沢はどう動くのでしょうか。次回の『半沢直樹』も要チェックです!

三笠(古田新太)の底知れぬ不気味な怖さも注目です。(C)TBS

『半沢直樹』https://www.tbs.co.jp/hanzawa_naoki/