コラムドはまり続出中!地獄から立ち上がる『梨泰院クラス』のパク・セロイが掴んだものは? 愛と下克上の物語
こんにちは、テレビウォッチャーで、ライター・エディター・コラムニストのかわむらあみりです。Suits womanでテレビをテーマにした連載コラムを書いています。
今回は、韓国ドラマ『梨泰院(イテウォン)クラス』(Netflix)をご紹介します。
注目される韓国作品。勧善懲悪の『梨泰院クラス』もブームに
いまやすっかり世間に定着した動画配信サービスのNetflixで、3月28日の日本配信開始から約4か月経った2020年7月のいまもなお総合TOP10上位に連日ランクインし続けている、韓国ドラマ『梨泰院クラス』。また、同作と同じ韓国ドラマ『愛の不時着』は、2月23日から日本配信開始となり、こちらも依然として上位の席を譲らない人気作です。
ここ数年、日本では韓国発のボーイズグループやガールズグループといった音楽面が話題となっていましたが、韓国映画『パラサイト半地下の家族』が2019年の第72回カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)、2020年の第92回アカデミー賞で作品賞など最多4部門を受賞。世界中が韓国の映像作品に着目し、再び日本でも注目する機運が高まっていたように思います。
そんななかでの『梨泰院クラス』ほかの韓国作品の日本配信で、すっかり韓流ドラマにハマる人が続出。そもそも筆者はあまり韓国作品には馴染みがなかったのですが、お仕事でご一緒した映画雑誌の編集者の方や、インタビューをしたアーティストさんなども「韓国作品がおすすめ」と言うのですから、観ないわけにはいきません! ということで鑑賞すると、どれも面白い。
『梨泰院クラス』は、韓国の人気WEB漫画を実写ドラマ化。大都市ソウルのなかでも国際色豊かな街・梨泰院を舞台に、小さな飲み屋を開店した前科者の主人公のパク・セロイ(パク・ソジュン)が、仲間たちと成功を掴むために奮闘していく姿が描かれています。
セロイを演じているパク・ソジュンさんは、韓国ではラブコメ作品に多く出演して“ラブコメの神”とも呼ばれている、韓国の若手トップクラスの人気俳優。最近では、あの『パラサイト 半地下の家族』で、主人公家族のキム一家の長男に裕福なパク家の家庭教師の仕事を紹介するエリート大学生・ミニョク役としてもカメオ出演していましたよね。どれも全然雰囲気が違うので、「役者ってすごいなぁ」とあらためて感じます。
『梨泰院クラス』の物語の発端となるのは、正義感が強いセロイが高校時代、転校したその日にいじめっ子を殴り、同級生を救ったこと。殴った相手が飲食業界のトップである大企業・長家(チャンガ)グループ会長のチャン・デヒ(ユ・ジェミョン)の息子、チャン・グンウォン(アン・ボヒョン)だったことから、実に「ややこしや〜」という展開になっていくんですよね。
頑固なまでに常に“正しいこと”を選択していく、セロイ。正しいことをしているのにも関わらず、壮絶な出来事が次々にセロイの身に起こり、何度も理不尽極まりない状況に陥れられます。そんなセロイが長家グループの会長親子に屈せず、復讐していく姿は痛快で、 “セロイ応援団”と化して声援をおくってしまう視聴者は多いはず。
それにしても、本当に底知れぬバカと言っていいかもしれない、長家グループ会長の息子・グンウォン。ずっと物語を観ていくと、グンウォンなりにかわいそうなところもあるものの、その数千倍かわいそうなセロイがいるので、お話になりません。ときどき、グンウォン(というよりも演じているアン・ボヒョンさんかも)が、元サッカー日本女子代表の丸山桂里奈さんに見えてしまうのは、なぜだろう。
そのグンウォンを操る長家グループ会長は、なんだかとっても“土下座”がスキ。何かあるとすぐセロイに土下座を要求する、どうしようもない権力者像を遺憾なく発揮しています。“土下座”、そしてセロイの復讐を果たす下克上ストーリーが繰り広げられる点から、まるで日本で人気のドラマ『半沢直樹』のようでもありますよね。
ただ、この会長役を演じているユ・ジェミョンさんの実年齢は、まだ40代後半。ご本人のインスタを見たら、まったく別人なのでビックリしました。『梨泰院クラス』では老人風の特殊メイクで、もっと上の年代の会長役を自然にやってのける実力派ゆえに、演技にも説得力があります。続いてはドラマのヒロインやその他登場人物にも迫ります。
「タンバム=甘い夜」を軸にじわじわと交差する恋愛関係もみどころ
主人公のパク・セロイ(パク・ソジュン)が、長家(チャンガ)グループ会長親子に復讐し、地獄から立ち上がって成功を掴んでいくストーリーが展開するなかで、ヒロインの存在も気になるところ。『梨泰院クラス』には、まったくタイプの違う女性が2人登場します。
セロイが高校生のときに初めて恋をするオ・スア(クォン・ナラ)は、セロイの父に助けられながら孤児院で育ちます。しかし、セロイの父亡き後、長家グループに就職し出世しますが、変わらず自分に想いを寄せるセロイを待ち続けるという、一筋縄ではいかない女性。セロイと対立する企業の人間であるものの、ずっとセロイを気にかけてちょこちょこ現れては仲良しぶりを見せつけます。
もともと韓国のアイドルグループだったオ・スア役のクォン・ナラさんは、すらりとした長身と美脚、整った顔立ちの超美人。高校時代はボブヘアで、成長してからはロングヘアで、時の流れを演出しています。その一方で、セロイはずーっと、個性的な短髪頭。劇中では「いがぐり頭」と呼ばれていますが、時を経てまわりが変わっていっても、内外ともに変わらないセロイの“不動の精神”をそこに見て取れる気がしました。
そんなセロイが開店したお店「タンバム」に集まる仲間のひとり、チョ・イソ(キム・ダミ)は、ソシオパス(反社会性パーソナリティ障害)でIQ162を誇る秀才の人気インフルエンサー。セロイに恋をして、お店のマネージャーとして、タンバムの発展に多大な貢献をします。スアとはガラリと違った設定のキャラクターですし、親しみやすいルックスで、外見もまったく違うイソ。
あるときセロイとイソが飲んでいるときに、店名「タンバム(甘い夜)」の由来を話すシーンがありました。「俺の人生はとても苦い」「少しでいいから、苦い夜を、俺の人生を甘くしたかった」と語るセロイを見つめるイソは、恋する乙女そのもの。心のなかで“まただわ、心がざわつく”と実感するイソ。セロイとイソのシーンでも、胸がキュンキュンする視聴者はいるのでは。
ときどきセロイがイソに“頭ポンポン”をするんですが、これって、ズルいですよねぇ。だって、慕っている年上の男性に笑顔で見つめられて“頭ポンポン”されたら、さらに恋する気持ちが膨らんでしまうじゃないですか。受け身のスア、能動的なイソ、どちらに感情移入してしまうかは、視聴者の恋愛遍歴や好みによってわかれるところではないでしょうか。
セロイを巡って2人の女性が火花を散らすわけですが、他にもさまざまなキャラクターが登場します。イソに片想いする長家グループ会長の愛人の息子・チャン・グンス(キム・ドンヒ)、ギャング出身のチェ・スングォン(リュ・ギョンス)、トランスジェンダーのマ・ヒョニ(イ・ジュヨン)、ギニア人と韓国人の血を受け継いでいるキム・トニー(クリス・リヨン)など。複雑な背景を持つ人物たちを“信頼”という大きな器で受け入れる、セロイ。
どのような境遇にいても、自分の価値を「自分で決める」と断言するセロイだからこそ、多種多様な人たちと深い信頼関係を築くことができるのです。さらに、揺るぎない「あ、この人絶対大物になる」的な“持ってる男”感がほとばしるセロイゆえに、スアやイソといった女性たちが惹きつけられてしまうんですよね。最後にはスカッとした気持ちにさせてくれる『梨泰院クラス』は、愛と下克上の物語でした。
Netflix『梨泰院クラス』https://www.netflix.com/title/81193309