コラム恋愛下手なおひとりさま女子ですが何か? 映画『私をくいとめて』に見る”恋愛迷子”の恋の行方

こんにちは、テレビウォッチャーで、ライター・エディター・コラムニストのかわむらあみりです。Suits womanでテレビをテーマにした連載コラムを書いています。

今回は、12月18日に公開される映画『私をくいとめて』をご紹介します。

アラサーでも恋愛の正解はわからない

映画『私をくいとめて』は、芥川賞作家の綿矢りささんの同名小説を映画化し、のんさん、林遣都さんの共演で贈る、ラブストーリー。以前、映画『勝手にふるえてろ』(2017年)でロングランを記録した大九明子監督が、再び綿谷さんとタッグを組み、崖っぷちのロマンスが繰り広げられます。

みつ子(のん)は、年下の多田くん(林遣都)との距離を縮められるのか!?
©2020『私をくいとめて』製作委員会

のんさんが演じるのは、おひとりさまライフがすっかり板についた、31歳の会社員である、主人公・みつ子。ものすごく夢中になれるような長く続けている趣味があるわけでもなければ、ものすごく不幸を感じるほどの悲劇に見舞われているわけでもない、その日その時に感じるままに、興味のあることに流れながらゆるゆると生きる、独身女性のリアルな姿がそこにあります。

それなりに社会生活にも適応して、平和なシングルライフを送っているみつ子は、実は脳内に「A」という相談役が存在。ひとりでいることが長すぎて、自分の脳内に、勝手に“相棒”を作ってしまったというわけですね。だから、なおさらのこと、寂しくない。悩んだときは、正しく導いてくれるAが答えをくれるという、脳内完結で日々を乗り越えます。

そんなAとみつ子が会話する際、かなりデカイ声で話しているので、結構ビビります。身近にいると「ヤバい……」と思う人もいるかもしれません。時にやさぐれて怒りのままに、時にまわりの人間に対しての鬱憤を、時に恋の悩みをひとり、大声でAに話すみつ子。それはポツリと独り言を言うレベルを超えて、目の前にいる見えないオバケに向かって話す感じ。でも、たとえばテレビに向かってひとりツッコミを入れてしまったり、頭で考えているだけのつもりが口に出てしまったりすることは、誰だって多少経験したことがあるはず。

31歳というと「立派な大人」とみなされる年齢ではありますが、恋愛下手な女性からすると、少女のまま年だけ重ねてしまうという現象はよくあること。仕事をしていると、1年なんてあっという間に過ぎてしまいますし、みつ子の生活は多くの女性に共感される面が多々あります。

ある日、林遣都さん演じる年下の営業マン・多田くんに恋をする、みつ子。でも、20代と30代の恋愛の違いを痛感して、ひとりに慣れ過ぎていたみつ子はなかなか前に進めないまま、実はご近所さんと判明した多田くんに晩ご飯をおすそ分けする日々が続き……という物語が展開します。

まるで学生時代のような胸キュンする日々に、実年齢では立派な大人の女性がとまどう姿は、物語の架空の出来事というよりも、「わかるわ〜」と実感してしまう、みつ子タイプの女性が全国にたくさんいるのではないでしょうか。私も不器用で、自分の気持ちを素直に相手に伝えることの難しさはよくわかりますし、なおのこと駆け引きなんてもってのほか。どうしたらいいのか恋愛迷子の日々を送っていたことがありました(遠い目……)。

とくに恋愛において、仕事関係の相手を好きなると、仕事に影響が出ないかという心配もあるため、みつ子のように実に「ややこしや〜」となるのもわかります。向こうからグイグイ来てすぐ告白してくれたらラクチンなんですけどね。好きになった人に好きになってもらう、ただそれだけのことだけど、シンプルでいて難しいのが、恋。

泣いたり笑ったり悩んだり怒ったりと、表情豊かにリアル・みつ子を演じきっているのんさんは、実際には27歳。対する、何を考えているのかわからないけれど好意を持っていそうな多田くんを演じる林さんは、30歳。劇中では年齢差がほぼ逆という設定ですが、絶妙なバランスで年下くんの身軽さを感じさせてくれる林さん。

みつ子と多田くんの恋の行方も気になるところではありますが、続いては、彼女たちを取り巻く個性的な登場人物も見ていきましょう!

おひとりさまを満喫する、みつ子は「ひとり焼肉」だって、へっちゃら!
©2020『私をくいとめて』製作委員会

もがきながらも未来を掴む成長物語

7年ぶりの共演となった、橋本愛さんとのんさん。
©2020『私をくいとめて』製作委員会

綿矢りささんと大九明子監督が再びタッグを組み、のんさん、林遣都さんの共演で贈る、映画『私をくいとめて』。脳内に相談役となる相棒・Aを作ってしまった、31歳の主人公・みつ子が恋する、年下の営業マン・多田くんとの胸キュンラブストーリーですが、みつ子をとりまく人たちも、それぞれの速度で人生を歩んでいます。

たとえば、みつ子が勤める会社の先輩・ノゾミ(臼田あさ美)は“先輩おひとりさま”として、みつ子に寄り添いながら、自分の幸せを探求。また、イタリア人の旦那様のもとへ嫁いでいった親友・皐月(橋本愛)は、遠く離れた外国で自分の人生と向き合っています。

ノゾミのようになんでも話せる先輩がいるみつ子は、恵まれているかも。実際、公私ともに悩み相談できるような会社の先輩がいる女性は、それほど多くはないのでは。でも、たとえそばにいなくても、すぐにわかりあえるような親友がいるって、いいですよね。

のんさんと橋本さんは、2013年のNHK連続テレビ小説以来の共演ですが、実生活でも心が通じ合っているからか、画面を通していてもふたりだけにしか出せない絆を感じさせてくれました。

いろいろな人たちとの交流を重ね、自分自身の心の葛藤に悶えるみつ子は、ひとりのほうがラクだと感じてしまう場面もありながら、おおいにジタバタ。シングルライフが長引けば長引くほど、自分のお気に入りの空間に他人を入れることの難しさ、わかるなあと共感すること必至です。不器用な人ほど、人との距離の取り方や自分の心の揺れ動きに、悩んでしまうことってありますよね。

どこにだってひとりで行けるみつ子だけど、心を解放するには、かなりハードルが高い。ある日ひとりで入ったカフェで、人の恋愛話を聞くつもりがなくても聞いてしまうことなんて、おひとりさまだからこそ。目の前に話す相手がいないのだから、自然とまわりの会話も耳に入ってしまいます。

そんなシングルライフを続けていくなかで、みつ子がどんな未来を掴むのか? 映画『私をくいとめて』は、胸キュンするシーンはいろいろあるものの、単なるラブストーリーというわけではありません。恋愛迷子で脳内相談役のAがいるという、クセが強いおひとりさまのみつ子が、自分の殻を破っていくという、成長物語でもあります。

恋する女性やおひとりさま女子はもちろん、カップルでも、みなさん、劇場でみつ子の成長物語を確認してみてくださいね。

恋する多田くんの胃袋を掴もうとする、みつ子。
©2020『私をくいとめて』製作委員会

映画『私をくいとめて』
原作:綿矢りさ「私をくいとめて」(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
監督・脚本:大九明子 音楽:髙野正樹
劇中歌 大滝詠一「君は天然色」(THE NIAGARA ENTERPRISES.)
出演:のん 林遣都 臼田あさ美 若林拓也 前野朋哉 山田真歩 片桐はいり/橋本愛
製作幹事・配給:日活 制作プロダクション:RIKIプロジェクト 企画協力:猿と蛇
©2020『私をくいとめて』製作委員会
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