コラム稲垣吾郎が奇妙な世界をつなぐドラマ『きれいのくに』 。深まる謎が人間の業をあぶり出す

こんにちは、テレビウォッチャーで、ライター・エディター・コラムニストのかわむらあみりです。Suits womanでテレビをテーマにした連載コラムを書いています。

今回は、よるドラ『きれいのくに』(NHK総合 毎週月曜 午後10時45分)をご紹介します。

不可解な世界をつなぐ圧倒的な稲垣吾郎の存在

物語のキーパーソンといえる稲垣吾郎。3話では先生役に。(c)NHK

吉田羊さん、稲垣吾郎さんが出演している、現在放送中の連続ドラマ『きれいのくに』は、誰しもが多かれ少なかれ抱える、容姿へのコンプレックスを物語の軸としています。高校生たちが暮らすのは、ほとんどの大人が“同じ顔”をした不条理な国。恋愛の衝動がほとばしる、リアルと虚構の入り交じる“青春ダークファンタジー”なのです。

とはいえ、4月12日放送の初回と19日放送の2話では、高校生はまだ出てきていません。ファンタジーの序章として「大人たちの物語」から始まりました。再婚同士である、美容師の恵理(吉田羊)と税理士の宏之(平原テツ)の夫婦に子どもはおらず、優雅な生活を満喫しています。しかし、ある日突然、恵理が十年前の恵理(蓮佛美沙子)の姿に若返った!? 宏之が困惑するなか、彼女の秘めた過去が明らかになっていきます。

気鋭のクリエイターが作り出す、攻めたドラマに挑戦してきたこの“よるドラ”枠。2020年に同枠で放送され、好評につき今年6月7日から“し~ずん2”がスタートする、千葉雄大さんと伊藤沙莉さんが出演されたラブ・コメディ『いいね!光源氏くん』が大好物だったので、『きれいのくに』も気になっていました。

今回のドラマは、新進気鋭の劇作家・加藤拓也さんとNHKが初めてタッグを組んでいて、2話まで視聴したものの、「どういうこと?」と謎は深まるばかり……。加藤さんが公式サイトで「へんてこな話を提案したらそのままゴーが出た」「へんてこな手触りのドラマになっているはず」とコメントしているのですが、「へんてこ」を通り過ぎて、なんとも奇妙であり、どこかゾッとさせるようなホラー感も。

それは40代の恵理を演じていた吉田さんが、1話の最後には蓮佛さん扮する30代の恵理になり、さらに2話の最後には小野花梨さん演じる20代の恵理になっているという、逆浦島太郎状態の展開に、プチパニックになります。パラレルワールドなのか? ひとりタイムスリップなのか? しかも恵理の変化を感じ取っているのが夫だけで、まわりの人たちはさほど気にしていないという、深まるミステリー。

そんな謎めいたストーリーをつないでいくのが、稲垣吾郎さんです。1話と2話で、恵理と宏之にインタビューをする、監督役として登場。次回26日放送の3話では、稲垣さんが先生役になる模様。さらに、劇中の架空の国では、ポスターの男性も含め、ほとんどの大人の男性の顔が日本のドラマ初というAI(人工知能)での顔合成が使用され、稲垣さんの顔になるという驚愕の展開に。

そして女性のほうも、ほとんどの大人の女性の顔が、加藤ローサさんの顔になるのだそう。加藤さんは、なんと10年ぶりの地上波ドラマへの出演ということで、時の流れを感じてしまいます。

20代の恵里を演じる小野花梨。20代の経験が未来に与える影響は?(c)NHK

年を重ねて変わる容姿への執着の正体は?

周囲の大人のほとんどは“同じ顔”をしている国の高校生たち。(c)NHK

連続ドラマ『きれいのくに』は、誰しもが多かれ少なかれ抱える、容姿へのコンプレックスを物語の軸とする、リアルと虚構の入り交じる“青春ダークファンタジー”です。

謎めいたストーリーをつないでいくのが、2話まで監督役として登場した、稲垣吾郎さん。これから劇中の架空の国では、ほとんどの大人の男性の顔が稲垣さんの顔になるそうなのですが、この奇妙な世界で、稲垣さんは10人以上の役を演じることに初めて挑戦したのだとか。

近年では、2019年公開の主演映画『半世界』で不器用な炭焼職人役を、2020年公開の主演映画『ばるぼら』ではワケありの耽美派小説家役を、同年に出演した連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)では医師役など、さまざまな人物像を演じてきた稲垣さん。

舞台においても、何度も再演している『No.9 -不滅の旋律-』で天才音楽家のベートーヴェン役や新しく始まった『サンソン -ルイ16世の首を刎ねた男-』で死刑執行人役と、異国の歴史的人物に扮してさらに演技力を磨いている稲垣さんだからこそ、今回のドラマ『きれいのくに』での奇妙な役割もなんなくマッチしているんですよね。

稲垣さんのように、ひとりで何役も挑戦する方もいれば、複数の俳優が恵理という、ひとつの役を演じているのも、同作のおかしみかもしれません。主人公の恵理からは、女性なら誰もが“年齢を重ねていくにつれて肌で感じる思い”を発していきます。

40代の恵理を演じる吉田羊さんは、公式サイトの5分動画で、「若さと美しさは加齢と反比例するものなのか」「自分の気持ちは見た目に左右されるのか」という、問題定義をされていました。劇中でも、若返る妻に対する眼差しが変化する夫の様子が描かれています。

ただ、40代から30代になった恵理には欲望を抱く「若い女のほうが好き」なはずの夫が、20代の恵理にはギョッとしてしまう。懐いていた犬でさえ、20代の恵理にはギャンギャンと吠えまくるのです……。ちょっとこのへんも、ホラーのかおりがします。

そんなドラマの4月21日放送回・第3話は、20代の姿に若返った妻・恵理(小野花梨)。それは夫の宏之(平原テツ)にとって、自分と出会う前の見知らぬ女の姿だった。そして物語は本章へ―若者以外の大人のほとんどが同じ男(稲垣吾郎)と女(加藤ローサ)の顔をしている世界。隣同士の家に住む誠也(青木柚)と凜(見上愛)はお互いに恋心を抱いているが、コンプレックスを抱え、気持ちを言い出せずにいる。あるとき、凛は映画館で小野田(吉田羊)という女に出会い……。果たして、「きれいのくに」の意味とはなんなんでしょうか!? その答えは、最後まで見ないとわかりません!

写真提供=NHK

よるドラ『きれいのくに』
https://www.nhk.jp/p/ts/M8Q721V51L/

かわむらあみりのテレビウォッチング
https://suits-woman.jp/column/tv/
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